政治の究極目標は「将来の世代を含めた一人ひとりの生命などを守ること」であると考えています。そしてその目的を達成するためには「ミクロ」「マクロ」、「過去」「未来」、「メリット(プラス)」「デメリット(マイナス)」などという複数の視点によって目の前の深刻な問題を相対化することが必要だと考えています。
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編集・発行:http://www.jchiba.net/、基本方針 筆者:千葉 潤、ご意見など:jchiba@tokyo.email.ne.jp 基本方針
実は「止める政治」と「つくる政治」以外に賢明な読者が日本の政治の本質を見極めるために役立つ「プリズムやフィルターのようなもの」を筆者はもう1種類用意している。もう1種類の「プリズムやフィルターのようなもの」を説明するためには、改めて参院選直前からこれまでの日本の政治の動きを振り返ってみる必要がある。
<参院選前後の動き>
安倍首相は地球温暖化問題に関する方針などを発表した(2007/5/24。「美しい星50」。2050年までに世界の温室効果ガスの排出量を現状から半減させることを世界共通目標に、米国・中国・インドなどのすべての主要排出国が参加する新しい枠組み作りを目指す、など)。
松岡利勝農水相が自殺した(2007/5/28。62歳。現職大臣の自殺は戦後初。ちなみに松岡農水相の資金管理団体が家賃や水道・光熱費が無料になっている議員会館を事務所としながら多額の事務所費・光熱水費を計上していたことなどで波紋が広がっていた)。そして安倍首相は後任に赤城徳彦自民党代議士(茨城1区選出)を起用した(2007/6/1)。
安倍首相はドイツ・ハイリゲンダムで行われた主要国首脳会議に出席した(2007/6/6-8。2050年までに少なくとも温室効果ガスの排出量を半減させることを含む欧州連合(EU)、カナダ及び日本の決定を真剣に検討するなどという表現を文書に盛り込む)。
第166通常国会の会期を7/5まで12日間延長することが衆院本会議で決まった(207/6/22。参院選は当初の予定よりも1週間遅れて7/12公示、7/29投・開票へ)。
安倍首相らが年金記録問題の「けじめ」のために6月の賞与の一部を国庫に返納することを発表した(2007/6/25。安倍首相は536万円のうち議員歳費部分302万円と既に返納を決めている財政再建分161万円を除いた約73万円を返納。塩崎恭久官房長官は約54万円、柳沢伯夫厚生労働相は約51万円を返納)。また政府の年金記録問題の「第三者委員会」(→年金記録確認中央第三者委員会)の初会合が開かれた(2007/6/25)。
宮沢喜一元首相が死去した(87歳。2007/6/28,13:16に東京都内の自宅で老衰のために死去。8/28に内閣・自民党合同葬)。
原爆投下を容認するかのような発言(2007/6/30)をした久間章生防衛相が辞任した(2007/7/3。安倍晋三首相は後任に小池百合子首相補佐官(国家安全保障問題担当、自民党代議士)を起用。安倍内閣での閣僚交代は3人目)。
赤城徳彦農水相の後援会などが実家などを主たる事務所として届け出て多額の経費を計上していたことが明らかになった(2007/7/7)。そして赤城農水相が事務所費問題で改めて釈明した(2007/7/10。公私混同などを否定するが、領収書や費用の内訳などは一切示さず)。
政府の「年金記録確認中央第三者委員会」が「基本方針」を決定した(2007/7/9。年金給付の判断は本人の申し立てが社会通念に照らして、明らかに不合理ではなく、一応確からしいこと、などと)。
参院選が公示された(2007/7/12)。
新潟県中越沖地震が発生した(2007/7/16,AM10:13頃、新潟県中越沖を震源とする地震が発生(マグニチュード6.8)、長岡市、柏崎市、刈羽村、長野県飯綱町で震度6強など。東京電力柏崎刈羽原発にも被害。地震発生時に長崎県を訪問中だった安倍首相は急きょ予定を変更して東京に戻って首相官邸屋上から自衛隊のヘリコプターで被災地の視察に向かう)。
麻生太郎外相が7/19の講演で農産物(コメ)の内外価格差について「アルツハイマーの人でも分かる」と発言したことを不適切だったと陳謝して撤回した(2007/7/20)。
参院選の投・開票が行われて自民は歴史的大敗・民主が参院第一党になった(2007/7/29。自民37(選挙区23+比例14、-27)、公明9(選挙区2+比例7、-3)、民主60(選挙区40+比例20、+28)、共産3(選挙区0+比例3、-2)、社民2(選挙区0+比例2、-1)、国民新党2(選挙区1+比例1)、新党日本1(選挙区0+比例1)、他7(選挙区7)。安倍晋三首相は続投する考えを示す。なお民主党の小沢一郎代表は遊説疲れによる「静養」のために姿を見せず。なお投票率は58.64%(2004年の投票率は56.57%)。また衆院岩手1区・熊本3区補選も行われる)。
「(自民大敗という責任を取ってさらにやっていくのかやめるのか、どちらか、に)今回、こういう逆風の中でも支援をしていただいた皆さん、あるいはまた、友党の公明党には本当に感謝をしていますし、またこういう状況になっているのは、申し訳ない結果だと思います。その上においてですね、その上において…、私は総理に就任をして、改革を続行していくと。そして新しい国づくりを始めていくとお約束を致しました。このお約束を果たしていくことが私の責任だと思います。そう決意をしています」「(約束を果たすためにはここで中途半端に投げ出さないということか、に)私は、大変厳しい、苦しい状況ではありますが…、その責任を果たしていくことが私に課せられた使命だと決意をしています」(以上、2007/7/29放送のテレビ朝日の開票速報番組での安倍首相へのインタビュー(7/29,22:20頃)から)
「(続投を表明したがその理由は、に)今回の選挙の結果は大変厳しい結果であったと思います。この結果、国民の皆さまの声を厳粛に、そして真摯に受け止めながら…。そして私は昨年、新しい国づくりを進めていきます、改革を続行していくと…、お約束をしました。この国民の皆さまに対しての約束を果たしていくことが私の使命だという決意を致しております」「(国民の理解は得られるのか、などに)ま、今回の結果…、これは国民の皆さまの声だと思います。ま、しかし、私どもが進めてきた政策…、基本的には間違っていないと…、今でも思ってますし、そこのところは国民の皆さまにもご理解をいただけるんではないかと思います。ま、しかし、この結果は結果として…、参議院においては民主党が第一党になりました。民主党の主張にも…、耳を傾けるべき点については傾けながら、ま、一緒に責任を持っているという…、考えの中でですね、協力できるところは協力をしながら結果を出していきたいと思います」(以上、2007/7/29放送のNHKの開票速報番組での安倍首相へのインタビュー(23:00頃)で)などと
そして第167臨時国会が開かれた(2007/8/7-10)。安倍首相は参院選前から「予約済」の外交日程だったインドネシア・インド・マレーシア3カ国を訪問した(2007/8/19-25)。また安倍首相は「人心一新」のために内閣改造・自民党役員人事を行った(2007/8/27。自民党幹事長には麻生太郎・前外相、総務会長には二階俊博・前国対委員長、政調会長に石原伸晃・前幹事長代理)。
「先月の参議院選挙の結果は大変厳しいものでありました。国民のこの厳しい声を真摯に受け止め、美しい国づくり、新しい国づくりを、そして改革を、再スタートさせるために、本日、内閣の改造を行いました。そして(自民)党の新しい執行部体制をつくったところでございます。昨年の9月に総理に就任して以来、国づくりに取り組んで全力を尽くしてまいりました。しかしながら、その間の閣僚の不適切な発言、政治とカネの問題、また年金の記録問題等…、そうした問題によって、国民の政治…、あるいは行政に対する信頼が失われてしまいました。この失われた信頼を再び政治に、そして行政に取り戻すために…、新しい内閣のメンバーによって全力を尽くし、成果を上げていきたい、そう決意を致しておるところでございます。また先の参議院選挙の結果は、中央と地方に存在する格差の問題…、もっと政治はこの格差に配慮すべきだ…。それが参議院選挙の結果、私どもが受け止めた教訓でございます。この11カ月間…、進めてまいりました新経済成長戦略で、景気は、経済は、確実に回復をしているわけでございますが、まだまだ実感できない…。あるいは…、まだまだ将来に夢が持てないという地域も存在する。それは事実であります…(後略)」
「(前略)…こうした内政、外交…、様々な課題もありますが、そうしたものに対応していく…。今回、適材適所、強力な布陣をつくった。私は、今、改造を終えて、そう考えております。今後、参議院におきましては、大変厳しい…、与野党が逆転した状況にはありますが、今後、我々は堂々と国民の前で、皆さまの前で、議論を展開をしながら、主張すべき点は主張しながら、民主党、野党の声にも耳を傾け、建設的な議論を行っていかなければいけないと。その方針でこの国会、臨んでいく考えでございます。与党、野党とも、国民に対して、責任を持っています。国民のための建設的な議論を行っていく考えであります。私からは以上であります」
「(政治とカネの問題をどのくらい重視して人選を行ったのか、この問題が発覚した場合の対処は、など)(前略)…政治とおカネの問題…、透明性を高めていく努力をしなければいけない。閣僚においては…、何か指摘が…、指摘されれば…、説明をしなければならない。十分な説明ができなければ去っていただくという覚悟で閣僚になっていただいております」
「(任命責任が問われたが、人材登用でどう反省したのか、などに)今回の内閣をつくるにあたりましては…、政策を実行していく、実行力に力点を置きました。その中で適材適所ということで人事を行ったわけであります。その中で経験を積んだ方々、いわゆるベテランと言われる方々や、あるいは、今まで様々な役職をお歴任された方々が入るという結果になったということではないかと思います…(後略)」
「(首相よりも当選回数の多いベテランをどう束ねていくのか、内閣と党との連携はどうするのか、などに)あの、私は当選5回で総理に就任したという立場でございますので、当然、私より当選回数が多い方も多くなる、むしろそういう方が多くなるというのは、これは、ある意味では…、当然なんだろうと。やむを得ないというところもあると思います。また個性が豊かということでは、まあ、政治家はまずみんな個性が豊かな方ばかりでございますから。あのー、その中で…、経験を積んだ方々に多く入っていただきました。また、私より当選回数、上の方々、たくさんおられますが、しかしその中で、私たちは、この選挙の結果を真摯に受け止め、同時に、改革は進めていく、そして成長戦略は進めていく…。この路線に賛同していただく方々に加わっていただきました。当然、一丸となってそうした課題に取り組んでいくことができると思います」
(以上、2007/8/27夜の内閣改造直後の安倍首相の記者会見から。参照:http://www.kantei.go.jp/jp/abespeech/2007/08/27press.html)
<安倍晋三改造内閣> ▽増田寛也総務相(前岩手県知事、初)、▽鳩山邦夫法相(津島派、自民)、▽町村信孝外相(町村派、自民)、▽額賀福志郎財務相(津島派、自民)、▽伊吹文明文部科学相(伊吹派、自民、留任)、▽舛添要一厚生労働相(無派閥、参院議員、自民、初)、▽遠藤武彦農水相(山崎派、自民、初)、▽甘利明経済産業相(山崎派、自民、留任)、▽冬柴鉄三国土交通相(公明党、留任)、▽鴨下一郎環境相(津島派、自民、初)、▽高村正彦防衛相(高村派、自民)、▽与謝野馨内閣官房長官(無派閥、自民)、▽泉信也国家公安委員長(二階派、自民、参院議員、初)、▽岸田文雄沖縄北方相(古賀派、自民、初)、▽渡辺喜美金融・行政改革担当相(無派閥、自民、留任)、▽大田弘子経済財政担当相(民間、留任)、▽上川陽子少子化担当相(古賀派、自民、初)。
そして就任したばかりの遠藤武彦農水相(自民党、衆院山形4区選出)が組合長を務めていた「置賜(おきたま)農業共済組合」(山形県米沢市)の補助金不正受給問題のために辞任した(2007/9/3)。後任には若林正俊前環境相(参院議員)が起用された(2007/9/4)。
内閣改造後わずか1週間で「十分な説明ができなければ去っていただく」という実例がさっそく示されることになったわけである。その他にも永田町周辺では「政治とカネ」などをめぐる不祥事が次々と明らかになっている。
また安倍首相はアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議出席などのためにオーストラリア・シドニーを訪問した(2007/9/7-9)。そして第168臨時国会が召集されて安倍首相が所信表明演説を行った(2007/9/10)。
安倍首相が緊急記者会見で辞意を表明した(2007/9/12。衆院本会議での代表質問(初日)の直前に第一報。参照:http://www.kantei.go.jp/jp/abespeech/2007/09/12press.html)。
<安倍首相自身の2つの「問題発言」>
参院選前後の動きを振り返ってみると、年金記録問題、そして相次ぐ閣僚の「政治とカネ」の問題や不適切な発言などで政府・与党にどれだけ大きな逆風が吹いていたのかということを改めて実感することができるのかもしれない。そしてまた安倍首相本人には参院選大敗の直接的な責任が何もなかったかのような印象を受けるかもしれないが、実はそうではないのである。もちろん安倍首相には、年金記録問題などを引き起こした「行政府の最高責任者としての責任」、また不祥事を引き起こしたり不適切な発言をしたりした閣僚を起用した「任命責任」があることは言うまでもない。だが、見落としてはならないのは、他ならぬ安倍首相自身も少なくとも2つの「問題発言」をしているということである。そしてそれらの「問題発言」もまた参院選の選挙結果にかなり大きな影響を与えているということはほぼ間違いのないことなのである。
「(前略)…まずですね、先程申し上げましたように、(赤城徳彦農水相(当時)の問題の事務所費の)光熱費は月800円…、800円ですよ。月800円で辞任要求するんですか。そこでですね、また事務所費もですね、月3万円ですよ…(後略)」「(赤城農水相ではなく総理が細かい数字を挙げて弁明していることが不思議だなどに)もちろん私の事務所じゃありませんから、それ以上のことは私は存じ上げませんが、私が赤城さんから受けた説明はそういうことなんですね。ですから、例えば、(平成)17、18年…、17年と16年と15年か…、その3年間は取っておくという義務がありますので、取っておく義務がある書類をですね…、法的にある間において、私がまあ、それを見せてもらったところですね、それはやはり、光熱費としてもですね、月800円しか使っていないし…(後略)」(2007/7/8放送のフジテレビ「報道2001」での安倍晋三首相の発言から)など
「まずあの、(赤城徳彦農水相(当時)が)説明をしていない、実態を明らかにしていない、という指摘がありましたが、それは間違いです。昨日、赤城大臣は30分を超えて…、記者会見を行い、説明を致しましたね。そしてそのときに、ま、何がポイントかと言えばですね。まず架空であったかどうか…。架空でない。架空でないということについての説明としてですね、この事務所は、おじいさんの時代からつくってきた事務所であって、そしてここに計上するのはこの事務所だけではなくて、水戸の事務所も含めての計上ですよと、こういうことになります。ま、これは法律でも認められていますし、悪いことでは全くないし…、多くの人たちはそうしています。つまり、この事務所と水戸の事務所…、合わせた人件費、光熱費、事務所費…、そしてまた消耗品費等々ですね…、のおカネを計上することができるんです。人件費もですよ。そして例えばこの(平成)17年度を見てみますとですね…、17年度を見てみますと…、光熱費、月800円ですよ。800円…。17年度ね。そして事務所費、3万円です。そして人件費は5万円…(中略)…月800円の…、光熱費っていうのはおかしいんですかね」(2007/7/8放送のNHK「日曜討論」での安倍晋三首相の発言から)など
「(前略)…最近はあまり使わなくなってきた。それをですね、(平成)17年度の赤城さんの報告書を見てみますとですね…、例えば光熱費はですね、月に800円ですから。800円。そして事務所費もですね、月に3万円だし…(後略)」(2007/7/8放送のテレビ朝日「サンデープロジェクト」での安倍晋三首相の発言から)など
1つ目の安倍首相の「問題発言」は「月800円」発言である。もしかするとテレビを見ていた人たちの中には携帯電話の定額料金か何かの話だと誤解した人たちもいたかもしれない。ちなみに例の「広報戦略」などというものと何か関係があるのかどうかは筆者にはよく分からない。何にしても安倍首相本人の話でもないのになぜそんなに「月800円」などと熱心に弁解しているのだろうと思った人たちも少なくはなかったことだろう。
確かに赤城徳彦農水相(当時)の事務所費問題では、法律という「狭義の強制性」は存在しないから領収書などを公開する義務はなかったのだろう。だが、社会総がかりで教育再生を推し進めているような「美しい国」では、正しい規範意識を含めた「広義の強制性」の方がずっと大きな問題になるはずである。筆者はどうも安倍内閣は「政治とカネ」の問題を甘く考えすぎる傾向があると思いながら安倍首相の「月800円」発言を聞いていた。
<「NGワード」>
「(参院選の位置付けを問われて)(前略)…こうした実績を、この国政選挙、参議院選挙に問いたい。このように思うわけであります。そして私が進めようとしている政策について、まさに国民に問いたい。このように考えています。もちろん衆議院の選挙…、これはまさに…、いわば完全に、これは、政権の選択を国民に…、これは問う選挙になるわけでありますが、衆議院につきましてはですね、これは今、解散ということは全くもちろん考えていないということは、申し上げたいと、こう思うわけであります。いずれにせよ、この参議院の選挙…、今までの実績と、そして今後、私が進めようとしている政策を国民の皆さまに理解をしていただく、支持をしていただくための政策であり、私と小沢さん…、どちらが首相にふさわしいかということについてもですね、国民の皆さまのお考えを伺っていくということにもなるわけでございます。しかし、その中では基本的には、今までやってきた政策について国民の皆さまに…、これは信を問いたいと。国民の皆さまのご評価を頂きたいと、こう考えているところでございます」(2007/7/1の21世紀臨調主催の党首討論会での安倍晋三首相の発言(民主党の小沢一郎代表と1対1で討論。7/1深夜にNHKでも放送)から)
「(今回の参院選は中間選挙的なものか、あるいは安倍首相なのか小沢代表なのかを問う政権選択的選挙なのか、などに)(前略)…景気の回復を、果実を、今、拡大しつつある。これを決して私は逆行させてはならない…、こう決意をしています。こうした決意を私はこの選挙戦を通じて、そして実績を訴えていきたいと思っています。自由民主党が、そして与党が…、安倍政権が言うことが正しいのか、それとも野党が言っていることが本当に正しいのかと。そのことを問うていきたいと思います」
「(参院選の勝敗ラインなどを示す考えはないのか、などに)私がこの参議院選挙で訴えるべきこと…。本来、政党が訴えるべきことはですね、何をやるかということなんですね。そして何をやってきたかということこそが問われなければならない。だから私は…、こう申し上げているんです。責任政党とは何か。政権政党とは何か。それは…、できることしか言ってはならない。言ったことは必ず実行する。私もお約束をしている政策については、必ず実行してまいりますし、今までも実行してまいりました。そのことが問われるべきなんだろうと思います。戦いの前に負けることを前提に、私はお話をする気はありません。勝利をして、さらに私はお約束をしたことを実行してまいります。政治家が問われることは、まさに政策を…、こういう政策を進めていくということをお約束をして、その約束通り進めていくかどうかであります。そしてその政策の信頼性であります。いいかげんな政策なのか、裏付けがあるのか、財源があるのか、そのことを真剣に問うていただきたいと思います」
「(2007/7/1の党首討論会で『私と小沢さんとどちらが首相にふさわしいのか』などと発言したが参院選は政権選択という位置付けもあるのか、などに)当然、党首のリーダーシップ、そしてまた信頼性について…、問う…、これは当然のことであろうと思います。そして政策を問うということは、この党首が主張している政策が本当に言っている通りなのか、この人は信頼できるのか、こういうことではないのかと思うわけであります。私と小沢さんの討論を聞いておられた国民の皆さまに、安倍晋三が言っていることと、小沢一郎が言っていること、どちらが説得力があったのか。どちらが本当に裏付けがあったのか。ただのバラマキを言っているのか。財源の裏付けがないのに言っているのか。本当にこれは正しい政策なのかどうか。ということをまさに私は問う選挙であろうと、そう思います」
「(与党の獲得議席が野党を上回らなければ国民が安倍首相を選んだことにはならないのではないか、などに)私どもは負けたことを想定して戦う気は毛頭ありません。全ての選挙区で勝つべく、そして私たちの、まさにこの政策…。地に足のついた、そして裏付けのある、実績のある、私たちが示すこの政策を国民の皆さまに分かりやすく説明をしていくことが大切であります。そしてその結果は素直な気持ちで待ちたい、私はこう考えています。この参議院選挙は大変厳しい戦いではありますが、私たちの政策をきっちりと、そして分かりやすく説明することができればですね、私は必ず勝利を得ることができる、こう確信を致しています」
(以上、2007/7/5の第166通常国会終了を受けた安倍首相の記者会見から。参照:http://www.kantei.go.jp/jp/abespeech/2007/07/05kaiken.html)
「(前略)…『美しい国』を作っていくためには、最後の最後まで私は全力を尽くしていく。まあ、そういう決意です。(参院選の結果がどうあろうと総理・総裁の地位にとどまるのか、などに)私は『数』ということではなくてですね、私はあくまでも私の目指す政策を実行できるかどうか…。実行できなくなったときにですね、これはもう全然実行できない…。こういうときには、これはまあ、力尽きるわけでありますが、最後の最後まで、私はお示しをした政策を実行するために全力を尽くしていく。そういう決意です」(2007/7/8放送のフジテレビ「報道2001」での安倍晋三首相の発言から)
「(前略)…皆さん、民主党が提唱している最低保障年金…、よーく見ていただきたいと思います。基礎年金…、すべて税金でまかなっていく。そういうふうにしています。だから私は(7/11の日本記者クラブ主催の討論会で)小沢(一郎民主党代表)さんに聞きました。それであれば22兆円、私が必要ですよ…。そう聞きました。そうしたら小沢さんはこう答えました。所得の制限をするから(現在の消費税全額の約)13兆円しかかかりませんと言ったんです。であるならば、皆さん、半分近くの人が基礎年金がカットされていく、もらえないということになっていくんです。これで本当に最低保障年金と言えるんでしょうか。そうではありません…(中略)…では今、消費税でまかなっている社会保障や、教育や、皆さまにとって大切な防災対策をはじめ…、そういうことはできなくなってしまうんです。そこのところには全く答えがない。皆さん、そこが責任政党と、そうではない政党の違いであります。私たちはそんな政党に政権をゆだねるわけには決していかない…。決意を致しております…(後略)」(2007/7/22の東京・吉祥寺北口での安倍首相の街頭演説から)
「(前略)…ただいま本当に皆さんから…、頑張れ、この逆風の中、負けるな…、温かいお言葉を頂きました。本当にうれしいです。感激をいたしております。また、国民の皆さまから率直なご意見も頂いています。私どもは、反省すべき点はしっかりと反省しながら、自由民主党を新しい自由民主党にもっと変えていく努力をしながら、そして皆さまの声に率直に耳を傾け、政策に反映をさせていかなければいけない…、決意を新たに致しています…(後略)」「(前略)…経済を成長させていく。私はこのお約束を致しました。そして皆さん、私が総理に就任をして10カ月、60万人の雇用をつくりました。そして失業率…、一時は6%まで上がってしまった。この失業率は9年ぶりに4%を切りました。もっともっと経済を成長させて、もっともっと景気を良くしていきます。やっと皆さんここまで来たんです。ここが皆さん、民主党と私たちの一番大きな違いなんです。民主党から経済を成長させる、あるいは、こうやって景気を回復させるという話を、皆さん、聞いたことがあるでしょうか。ないんですよ、皆さん。経済を成長させないで、景気を良くしないで、どうやって、皆さん、格差を解消するんでしょうか。その財源はどうやってつくるんでしょうか。やっとここまできた。今、改革を止めてはならない。今やっと、この景気の実感を拡大をしている。これを止めてはならないんです…(後略)」「(前略)…皆さん、どうか私たちに力を与えてください。私たちに勝利を与えてください。この選挙は…、改革を続けていくのか、逆行するのか。経済を成長させてもっとみんなが豊かになっていくのか。あるいはあの政治が混乱した90年代の、あの経済低迷に戻っていくのか。それを決める選挙なんです。どうぞ皆さん、よろしくお願いを申し上げます。ありがとうございました…(後略)」(以上、2007/7/26の千葉・柏駅東口での安倍晋三首相の街頭演説から)
安倍首相がいくら参院選では「実績」と「政策」を国民に問いたいなどと強く思っていたとしても、「私と小沢さん…、どちらが」などという「NGワード」でほとんどすべてが吹き飛ばされてしまったような状態だった。多くの人たちは参院選で実は「実績」と「政策」が問われていたとは夢にも思わなかったことだろう。なお「私と小沢さん…、どちらが」などという「NGワード」が例の「広報戦略」などというものと何か関係があるのかどうかは筆者にはよく分からない。
確かに安倍首相が強調していた経済を成長させるために改革を進めていくことが民主党との一番大きな違いなどという部分の「反応」は悪くはなかった。だが、客観的な形で勝利が確定したわけではなかったのである。「私と小沢さん」のどちらが説得力のある政策を主張しているのか。「私と小沢さん」のどちらが財源の裏付けのないようないいかげんな政策を言っているのか。客観的に見ればどちらが勝利したのかは正式には確定していない。だが、安倍首相には多くの国民が見ている場所での「政策論争」で小沢代表と民主党に「完勝」したと考えることができるそれなりの根拠があったのである。そして安倍首相が実際に「政策論争」で小沢代表と民主党に「完勝」したと考えていた可能性が高いということである。
ちなみに筆者の記憶では安倍首相が「私と小沢さんどちらが首相にふさわしいか」などと言ったのは記者会見での質問への答えなどを除けば選挙前の1回しかない。安倍首相は選挙中に「私を選ぶか小沢さんを選ぶか」などと筆者のいない場所で何度も繰り返し言っていたのだろうか。どういうわけか今では安倍首相が「私を選ぶか小沢さんを選ぶか」などと参院選の選挙期間中に繰り返し国民に問いかけて大敗したにもかかわらず辞めなかったなどという「怪しげな空気」がでっち上げられてしまっている。なるほど確かに目に見えない「空気」とは得体の知れない怪しげなものである。
さて、安倍首相は参院選・内閣改造後にも「不可解な問題発言」をしている。安倍首相はオーストラリア・シドニーで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議終了後の内外記者会見(2007/9/9)でテロ対策特措法の延長問題について「国際的な公約となった以上、私には大きな責任があるわけでございます」「自衛隊の補給活動を継続させるためにはあらゆる努力を行わなければならない」「民主党をはじめ野党の皆さまのご理解を頂くために職を賭して取り組んでいく考えでございます」「(継続できなかった場合には内閣総辞職という覚悟で臨むのか、に)私の責任において、職責において…、あらゆる…、すべての力を振り絞っての職責を果たしていかなければならないと考えているところであります」「私の職責にしがみつくということはございません」などと述べた。
「職を賭して」などという言葉が「NGワード」であったかどうかは微妙である。だが、やはり安倍首相の辞意表明(2007/9/12)後の今になっても、考えれば考えるほど真意が不明で「不可解な問題発言」のままである。ただ今回の「不可解な問題発言」の場合には参院選前とは少し様子が違った。翌日に与謝野馨官房長官が憲法59条の衆院での2/3での再可決に言及するなどして各閣僚・自民党幹部らが「怪しげな空気」に歯止めをかけようとした。結局は安倍首相の辞意表明という事態に至ってしまったわけだが、内閣改造・党役員人事でずいぶんと「温かい組織」に変わったという印象は残ったのである。
<「責任論」の「結論」>
「(具体的にどこが反省すべき点なのか、などに)私がまあ、反省すべき点と、このように申し上げましたのは、まず第一点としては、年金の記録問題…、に対する対応であります。この問題…、ま、国…、国家、政府に対しての不信であろうと思います。この不信を払拭する…、その努力がまだまだ足りなかったと…、そう思います。これはいわば役所の立場に立っての説明ではなくて、国民の立場に立って、事を進めていかなければいけないと。私どもすべて…、やるべき対策は、ま、やっております。その中において、しっかりと今、この対策を実行することにおいてですね、国民の皆さまの信頼を回復をしていきたいと。それもいわば政策を進めていくということもですね、役所の観点に立った…、姿勢ではなくて、国民の皆さまから見てですね、しっかりと政策が進んでいくという…、観点から進めていかなければいけない。そして…、ま、人事…、につきましてもですね、国民の皆さまから、これはまさに適材適所であると…。こういう人材であれば、政治主導で物事を前に進めていけると判断していただけるように…、ま、そういう人事をしていきたいし…。また…、党として、こういう大変厳しい状況になったわけでありますから…、一致協力して、全員でですね、政策を前に進めていくと。まさに政治がリーダーシップをとって、国民の立場に立って、ときには勇気を持って前に進んでいけるという…、チームを作っていかなければならないと思います。そして、政治とカネの問題についてはですね…、私どもの答えは国民の皆さまから受け入れられなかったということだと思います。党に…、先程申し上げましたように、党に対して…、厳格な規約を作っていく…。そしてまた、さらに法制化についてですね、与党で検討するようにという指示を致しました」
「(内閣の基本路線は国民の理解が得られたとする根拠は何か、などに)基本的な路線というのは、これは、経済を成長させていくことによって、景気を回復させていき、そして格差を解消していく…、という基本的な経済政策についてはですね、ご理解をいただけるんではないかと…、各地域で演説をしていて…、聴衆の皆さまの反応でそう感じました。ま、しかし…、さらに、この景気回復…、の実感というのは、地域によって、また、産業、業種によっては…、全くないと。そういう中で、改革を進めていく上においてですね、影の部分にちゃんと光を当てているのかという国民の声があったと思います。そういう声に我々もっと答えていかなければならないと考えています」
「(私か小沢代表かを問う選挙と言った結果の自民大敗だが、なぜ首相でないと改革が進められないのか、などに)あの、大変、ま、こういう結果を受けてですね…、困難な道であるということは、私も覚悟をしています。ま、しかし、その中で…、日本は改革を進めていかなければやっていくことができなくなっていると。これは間違いがないわけです。この改革を進めていくには、覚悟もいるわけでありますし、計画も必要です。私どもは改革の…、スケジュールについてお見せを致しています。この改革については、私はもう既にお約束をしています。しっかりと実行していかなければいけない。私はお約束をしたことは、今までも…、守ってまいりました。これからもこの改革についてはしっかりと進めていく。約束を果たしていきたいと思います」
「(解散・総選挙について)今回の参議院選挙の結果は重く受け止めています。その上において、今の私の使命を果たしていくと、このように申し上げました。まずはまだ衆議院の任期…、2年残っております。その中で実績を上げていくことが大切であり、それが求められていると考えています。しかし、もちろん、しかるべきときにですね、衆議院の選挙を行って…、そのときにはまさに…、政権の信を問うことになると考えています」
「(続投を決意したのはいつか、に)私は、この選挙期間を通じて、全国を回って遊説を行ってまいりました。その間…、どういう結果が出るか、その際、どういう決断をするかということはずっと考えてまいりました。そして昨日の投票、開票を迎えたわけでありますが…、概ね結果が予想される中においてですね、大変厳しい状況であるということも認識をいたしました。ま、しかし、ここで…、逃げてはならないと。大変厳しい状況にはなっていくわけでありますが…、こうした状況の中においてもですね、やはり政治の空白は許されないという決断をいたしました」(以上、2007/7/30(参院選投・開票日翌日)の自民党本部での安倍首相(自民党総裁)の記者会見から)
参院選大敗後の安倍首相に対する厳しい批判の中には「もっともらしいもの」も数多くあった。例えば、「1989年参院選(→議員定数252(改選議席数126))のときは自民36で当時の宇野宗佑内閣は退陣した。1998年参院選(→議員定数252(改選議席数126))のときは自民44で当時の橋本龍太郎内閣は退陣した。今回は自民37(→議員定数242(改選議席数121))なのに安倍首相が辞めないのは明らかにおかしい」などと叫んでいる人間たちも多かった。確かに「当選者数」だけを見て「懐かしい古い自民党」の慣習に基づいて判断すればそういう結論が導き出されるのかもしれない。だが、そういうことを叫んでいる人間たちはどういうわけか議員定数(改選議席数)の変化、「当選者数」の内訳、選挙制度の変化などには全く注目せずにあえて「当選者数」だけを問題にするのである。
言うまでもなく「分母」の議員定数(改選議席数)がそろっていないのに「当選者数」だけを取り上げても正しい比較ができるわけがないのである。例の「対照実験」と同じ話である(→参考:2006/2/8号etc.)。わざわざ大きさが違う別々の「容器」に入れた水の「高さ」を比べてどちらが水の量が多いかを比べようとする人たちはあまりいないことだろう。
そしてまた安倍首相の要請を受けて参院選直前に立候補を決めた新人候補たちの当選率の高さと当選者に占める高い割合が注目されることはどういうわけか全くないのである。さらに比例区の選挙制度が「拘束名簿式」から「非拘束名簿式」に変更(2000年)されたために有権者は「政党名」に加えて「個人名」も書くことができるようになったということが今回の参院選と1998年以前の参院選との大きな違いの一つである。よって今回の参院選では「政党名」と「個人名」のどちらがどれだけ多かったのか、また組織票以外でどれだけ多くの有権者が実際に「個人名」を書いたのかが「投票率」と並ぶ大きな注目点であると筆者は考えている。
自民党が歴史的大敗をしたにもかかわらず、安倍首相の強い推薦を受けた新人候補たちが高い当選率と当選者に占める高い割合を示しているということをどのように解釈するかによって責任論の結論も変わってくるはずである。もちろん選挙結果を詳細に分析してみなければハッキリしたことは言えないが、もしかすると参院選ではテレビカメラの前でもっともらしく安倍首相の辞任を求めていた「その他の自民党の政治家とその仲間たち」の方が「安倍首相やそのお友達」よりもずっと多くの有権者から否定されていたのかもしれないのである。
それにしても安倍首相が続投する方針を示してからしばらくの間の永田町周辺の一部の人間たちの「過剰反応」は実にこっけいだった。古い永田町の慣習からは「想定外の事態」が発生して頭の中が真っ白になったまま「フリーズ」してしまったのか、それとも、どうしても安倍首相に辞めてもらわなければ困るような「特別な事情」があって「パニック状態」になってしまったのかは筆者にはよく分からない。だが、「辞めないのはおかしい」「辞めるべきだ」などとテレビカメラに向かって繰り返し叫んでいる人間たちの真に迫った悲壮な表情は、テレビの世界の「エンターテインメント」としてはなかなかの出来栄えだった。レギュラー番組にすれば「なぜか政治家たちがよく出てくる訳の分からないテレビ番組」よりもずっと高い視聴率を狙えたのかもしれない。ちなみに選挙取材などを通じて安倍首相は参院選でどれだけ大きく敗北しても絶対に辞めることだけはないと確信していた筆者にとっては「エンターテインメント」をはるかに超えた興味深さがあったということもあえて付け加えておくことにしよう。
もちろん参院選で大敗してもあえて続投を決めた安倍首相への厳しい批判や不満が全く理解できないというわけではない。ある意味ではそうした批判や不満は当然でもある。しかし、一歩踏み込んで考えてみれば「参院選で大敗したら辞任しなければならない」という考え方は実は明確な根拠のない単なる強い思い込みに過ぎないということに気づくことだろう。そして「参院選大敗は首相の交代を求めたものであって自民党自体を否定したものではない」などというごく一部のカルト的な主張は、「懐かしい古い自民党」の悪しき慣習に捉われたあまりにも自己中心的な発想だということにもすぐに気づくはずである。
<安倍首相が辞めたらどうなるのか?>
確かに「安倍首相は解散・総選挙に踏み切るべきだ」という主張は「正論」ではある。解散・総選挙で国民に信を問うのも一つの選択肢ではある。だが、「参院選が直近の民意だから安倍首相は辞任すべきだ」などという「さももっともらしい主張」は一歩踏み込んで考えてみると全くと言っていいほど説得力がないのである。なぜなら「民意」の反映を問題にするのならば、安倍首相が辞任して誰が後任の新首相になった場合であっても、その後任の新首相は「民意」を受けて就任したことには全くならないからである。
たとえ誰が後任の新首相になったとしても、選挙を通じて新首相を支持する勢力が衆院の過半数を獲得して有権者から信任されるまでの間は「民意」を反映していないので正統性に疑問符がついたままということになるわけである。つまり「民意」の反映を問題にするのならば、必ず解散・総選挙を一緒に考えなければならなくなるはずである。そして「民意」の反映を問題にするのならば、後任の新首相が誰になったとしても、安倍首相がこのまま続投していた場合よりも解散・総選挙を遅らせることを正当化できる理由は全くないということにもよく注意をしておく必要がある。そしてさらに言うならば、たとえ誰が解散・総選挙に踏み切った場合であっても、実は「民意」を反映するということはそんなに簡単なことではないのである。
与党側の後任の新首相が解散・総選挙に踏み切ったときには、与党が選挙で衆院の過半数を獲得すれば有権者から信任されたことになるはずである。しかし、当たり前と言えば当たり前の話だが、総選挙(衆院選)で勝利しても参院を解散できるようになるわけではないから選挙結果がどうなっても参院では野党側の多数のまま変わらないのである。そしてたとえ総選挙という「直近の民意」で与党勝利という明確な結果が示されたとしても、参院で多数を占める野党側が「直近の民意」を尊重して政府・与党提出のすべての法案に賛成するようになることもおそらくないのだろう。解散・総選挙で与党が勝利した場合には「直近の民意」論を唱えている野党側の政治家たちが単なる「ご都合主義者」かどうかが誰の目にも明らかになるのだろう。いずれにしてもたとえ今の与党が再び衆院の2/3以上の議席を獲得した場合であっても政権運営は不自由な状態のまま全く変わらないということになるわけである。
もしも総選挙という「直近の民意」を受けて参院で多数を占める野党側が「直近の民意」を尊重して政府・与党提出のすべての法案に賛成するようになるとか、あるいは、与党側が野党側から引き抜き工作によって選挙を通じずに参院で過半数を回復するようなことが許されるようになるというのならば話は全く違ってくる。だが、もしも「直近の民意」を受ければ参院での引き抜き工作などが正当化されるということになってしまうのならば、参院議員の任期は6年ではなくて事実上「選挙から次の衆院選」までという奇妙な話になってしまうはずである。
これとは全く逆に、解散・総選挙の結果、野党側が参院に続いて衆院でも過半数を獲得した場合は、とりあえずのところは政権交代が起こるというだけで大きな問題は発生しないのかもしれない。だが、その場合には野党側が本当に政権を担当することができるような安定した勢力であるのかということが必ず問題になってくるはずである。そして困ったことに現状ではたとえ野党第一党・民主党の単独政権ができた場合であっても、民主党自体が様々な政策で必ずしも一枚岩ではないので単独政権でも安定政権になるかどうかは定かではないのである。つまり現状ではどのようなケースになっても政治の混乱状況が長く続く可能性の方が高いということになってしまうのである。
日本は言論の自由が保障された民主主義国家だから「安倍首相は参院選大敗直後に辞めるべきだった」などと主張することは全くの自由である。しかし、政治報道であれ、政治活動であれ、およそ政治というものを真面目に考えなければ職責を果たすことができないような立場にいる人間ならば、どんなに少なくとも安倍首相が辞めたらどうなるのかということぐらいは事前に一歩踏み込んでしっかりと考えておく必要があったのである。
<「空気」とはいったい何か>
もしかすると参院選大敗を受けても辞任しなかったのに所信表明演説直後に辞意表明した安倍首相は「KY(空気読めない?)」という評価がすっかり定着(?)しているのかもしれない。本当に安倍首相が「KY」だとしても、あるいはそうではなかったとしても、これからすぐに問題になってくるのは、その読めない「空気」とはいったい何かということである。読めないのは「永田町の空気=永田町の悪しき慣習」なのか、それとも「日本社会の空気=世論」なのかということが真っ先に問題になってくるはずである。
筆者が「止める政治」と「つくる政治」以外にもう1種類用意した日本の政治の本質を見極めるために役立つ「プリズムやフィルターのようなもの」とは、その「空気」のことである。日常会話で比喩的に使われる「空気」とはいったい何か。もちろん「その場の雰囲気」という単純な意味もあるだろう。またいわゆる「世論」のような「つかみどころのない非常に移り気な空気」もあるだろう。様々な「空気」に注目していれば新しく生み出された複雑な日本の政治状況の中でも本質を見失うことが少なくなるかもしれないと筆者は考えている。
さて、話は少し変わる。民主党の小沢一郎代表が参院選で与野党逆転ができなかった場合に代表を辞任する考え(2007/7/5)をまず示し、さらに政界を引退する考え(2007/7/8)を示したことをまだ覚えている人たちも少なくはないことだろう。もしかすると「勝敗ライン」などには一切触れなかった安倍首相が実は「政局」は読めたのかもしれないということに勘の鋭い賢明な読者は気づいているのかもしれない。
なおあくまでも念のために言っておくが、「KY(空気読めない?)」の反対語は「YK」ではない。「YK」とは「空気が読めること」ではなく、「政局が読めないこと」を表す「新語」(?)である。そして「政局が読めること」は「K」で表す(→参考:2005/10/18 (8/8)号)。もう一つだけおまけに「新語」を紹介しておくと、「なぜか自分の足元だけはすぐに見えなくなること」は「KAN」で表す。これらの「新語」はその由来も含めて分かる人たちにはすぐに分かることだろう。「KY」などの「新語」が「流行語」にまで出世できるかどうかはまだよく分からないが、そろそろ「言葉遊び」はお終いにしておくことにする。
正しい「要約」と正しい「比較」のススメ(→2006年以前へ) (ほぼ同一内容をメールマガジン版「永田町ワイドショー」として配信済)
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